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静岡地方裁判所 昭和31年(行)4号 判決

沼津市千本港町九一番地の三

原告

沼津小型貨物自動車株式会社

右代表者代表取締役

杉山猛

右訴訟代理人弁護士

城田富雄

沼津市大手町一〇五番地

沼津税務署長

被告

佐治忠平

右指定代理人

加藤隆司

村松実

望月伝次郎

杉山昇

天池武文

服部明

小川啓一郎

望月定二郎

右当事者間の昭和三十一年(行)第四号法人税に関する審査決定取消請求事件について、当裁判所は、つぎのとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の申立

原告訴訟代理人は、「被告が原告に対して昭和三十年十一月三十日附をもつてなした原告の自昭和二十九年四月一日至昭和三十年三月三十一日事業年度分法人税の所得金額四十万四千九百円とする更正決定は、これを取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求めた。

被告指定代理人らは、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

第二、当事者の主張

一、原告の請求原因

(一)  原告は、昭和二十六年十一月二十九日貨物自動車運送事業等を目的として設立された株式会社で、毎年四月一日より翌年三月三十一日を事業年度とするものである。そして原告会社の自昭和二十八年四月一日至昭和二十九年三月三十一日第三期事業年度には金四十一万七百八十三円の損失、自昭和二十九年四月一日至昭和三十年三月三十一日第四期事業年度には金四十万四千九百円の利益があつたものである。

(二)

(1)  原告会社は、第三期事業年度分から法人税法に定める青色の申告書をもつて申告することの承認をえようと、所定の青色申告書提出承認申請書を昭和二十八年三月末頃に所轄沼津税務署法人係に提出した。

(2)  これに対し被告は、右申請の承認又は却下の意思を明示しなかつたが、翌二十九年三月の決算の申告に際して、被告から青色申告書の用紙が送付されたので、原告会社はこれによつて確定申告をした。

(3)  原告会社の昭和二十九年四月一日から昭和三十年三月三十一日に至る事業年度においては前記のように利益を生じたが多額の繰越欠損金があつたため、法人税法第九条第五項の規定によりこれを損金として計算した結未、同年度においては課税所得がないことになつた。よつて原告会社はその旨の確定申告をしようとしたところ、昭和三十年五月に被告から白色申告の用紙が送付されたので、当時直ちに被告の係員に対し原告会社が青色申告の承認をうけていることを告知したが、申告書の提出期限が切迫していたため口頭でその旨の留保を附したうえ白色の申告書をもつて申告をしたのである。

(三)  ところが被告は昭和三十年十一月三十日付更正決定通知書をもつて原告会社が青色申告をもつて申告することを承認していないから、損失の繰越は許されないとして、第四期事業年度分所得金額四十万四千九百円につき法人税を課する旨の更正決定をなして原告会社に通知した。

(四)  そこで原告は、被告に対し直ちに再調査の請求をしたところ、被告は昭和三十年十二月二十三日原告に対し右請求を棄却する処分をなし原告は法定の期限内に名古屋国税局長に対し審査の請求をしたが、同局長は昭和三十一年五月二十一日附で右請求を棄却する旨の決定をなし、原告は同年六月初めその旨の通知をうけた。

しかしながら原告会社が提出した前記青色申告書提出承認申請書に対し被告は却下したことも、また取消処分をしたこともないのであるから、原告会社は法人税法第二十五条第六項の規定から青色申告法人とみなされるものであり、当然じ後の事業年度に欠損金は繰越されるものであつて、被告の右更正決定は、原告会社の所得の認定を誤つた違法がある。よつてその取り消しを求めるため本訴請求におよんだものである。

二、被告の答弁

(一)原告主張の請求原因(一)(三)(四)の各事実はすべて認める。

(二)原告主張の(二)、(1)の事実は否認する。(2)の事実中、原告会社が青色申告用紙で申告したことは認めるが、その余は否認する。(3)の事実中、被告が白色申告用紙を送付したことおよび原告会社がその主張の頃白色申告書を提出したことは認めるが、その余は否認する。

第三、証拠

一、原告訴訟代理人は、甲第一、第二号証を提出し、証人山本博、同仁科三郎、同小野和雄の各証言並びに原告会社代表者杉山猛の尋問の結未を援用し、乙第三号証の一、二、乙第四号証、第五号証の一、二の各成立を認め(乙第五号の一、二については原本の存在も認める。)、乙第六号証の成立は不知、乙第一号証中上部欄外に鉛筆で「非青」と記入してある部分の成立を否認し、その余の部分を認める、と述べた。

二、被告指定代理人らは、乙第一号証、乙第三号証の一、二、乙第四号証、乙第五号証の一、二、乙第六号証を提出し、証人山本博、同望月定二郎、同富塚昌吾、同田島和江の各証言を援用し、甲第一号証中鉛筆書きの部分の成立を否認し、その余の部分の成立を認め、甲第二号証の成立を認める、と述べた。

理由

原告が原告主張の日にその主張のような目的をもつて設立された株式会社で、毎年四月一日より翌年三月三十一日を事業年度とするものであること、原告の昭和二十八年四月一日から昭和二十九年三月三十一日に至る第三期事業年度には金四十一万七百八十三円の損失、昭和二十九年四月一日から昭和三十年三月三十一日に至る第四期事業年度には金四十万四千九百円の利益があつたこと、原告が被告に対し昭和三十年五月に第四期事業年度分法人税の確定申告をしたところ、被告は右申告に対し原告主張の日付を以て、その主張どおり所得金額を更正決定し、その旨原告に通知したこと及び原告はこれに対し再調査の請求をしたところ、被告が原告主張の日付をもつてその主張のとおり再調査決定をなしたこと、並びに原告が更に名古屋国税局長に審査の請求をしたところ、名古屋国税局長は原告主張の日付をもつて原告主張のとおり審査決定をなして原告に通知したことは、いずれも当事者間に争いがない。

原告は被告から原告会社が青色申告書によつて確定申告を行うことの承認を得たものであり、右第三期事業年度において多額の繰越欠損金を生じ、第四期事業所得の算定上、法人税法第九条第五項を適用して右繰越欠損金を損金に算入すれば課税所得はないことになるから被告のなした更正決定は違法である旨主張しこれに対し被告は右承認申請のあつた事実を否認する。そこで、本件における唯一の争点は結局原告会社がその主張の頃に沼津税務署法人係に対し青色申告書提出承認申請書を提出したかどうかにあるわけであるから、この点について判断すると、証人小野和雄の証言および原告会社代表者尋問の結果中原告会社の経理係小野和雄が昭和二十八年三月沼津税務署法人係山本事務官に対し右申請書を直接提出したとの趣旨に帰する供述部分は後記の証拠と対照してにわかに信用し難く、また甲第一号証中鉛筆で「控」および「昭和二十八年春提出」と記載された部分は、証人富塚昌吾、同田島和江の各証言、右各証言より真正に成立したと認める乙第六号証を綜合すると、原告会社が昭和三十一年一月二十二日に名古屋国税局長に審査請求をなした当時には記載されていなかつたことが認められるから同号証をもつては、未だ原告会社がその主張の日に右申請書を被告に提出したことを認めしめるに足りず、他に申請書提出の事実を首肯するに足りる証拠はない。

かえつて、証人山本博、同望月定二郎の各証言によれば、沼津税務署の庁舎内には申請書などの書類を受ける窓口は入口附近に受付箱があるのみであつて、その受付箱に入れられた書類は、総務課総務係で受付印を押捺し、被告沼津税務署長の検閲を受けた後、各課の所管別に分類した上、それぞれの課に送られること、法人税の青色申告書提出承認申請書は法人係に廻されてから青色申告整理簿に記入されること、該青色申告整理簿には原告から右承認申請書の提出された旨の記載のないことを認めることができ、更に成立に争のない乙第三号証の一、二(法人名簿)、乙第四号証(法人税事務原簿)、乙第五号証の一、二(法人税決定決議書控)の各記載によれば、被告は原告会社を所謂青色法人として取扱つていなかつた事実を認定することができる。

もつとも、被告の当時の青色申告書提出承認申請書などの書類の取扱方法が前記認定のとおりであり、特に成立に争いのない甲第二号証と証人望月定二郎の証言によると、被告は当時申請書提出者に対し受領証等により申請書の受理を確認する方法を講じなかつたことが認められるから、その取扱に絶対に過誤がないと断言できないとしてもこの一事をもつてしては、原告の青色申告書提出承認申請書を被告に提出したとの主張事実を認めることはできないと考えるのが相当である。

してみると被告が本件処分をなすに当つて、原告会社の第四期事業年度の課税所得の算定上、第三期事業年度の繰越欠損金を損金として算入することは許されないものとしてなした本件更正決定は相当であり、これが取消を求める原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用は民事訴訟法第八十九条により敗訴当事者である原告に負担させることとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 戸塚敬造 裁判官 船田三雄 裁判官 井田友吉)

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